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MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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童話「ベラのペンダント」13

童話「ベラのペンダント」13です。

良かったら、最初から読んでみてくださいね。

童話「ベラのペンダント」1・2です。

フリーページの最後の「続き」をクリックしていただくと続きが読めます。

また、挿入歌として「遥かなるあなたへ」を作詞作曲してみました。

上の題名をクリックしてみてくださいね。

花畑ライン

とうとうベラの社交界デビューの舞踏会の日がやってきた。

義母セリーヌが丹精込めて選んだ真紅の華やかなドレスを着てみせると、

「まあとても良く似合うわ。さすがわたしの娘!」と喜んでいた。

きっと亡くなった娘が成長した姿を想像していたのだろうと思うとベラは複雑な心境だった。

だがそれよりも気がかりなのは実の父の王に挨拶すること。

その時に娘だとわかってもらいたいのだ。

ベラは実の母からもらった青いペンダントを隠し持ち、

挨拶の前に、義母が用意してくれたアクセサリーに重ね付けした。

王の前に進み出て「初めまして。ベロと申します。」と挨拶してドレスを手で広げながら屈んだとき、

胸の谷間の奥で光ったペンダントを王は見逃さなかった。

まるでその青白い光に魅入られるように。

王の横に座る王妃には、微妙な角度で死角に入る。

母を殺した王妃に勘付かれてはならないのだ。

王の顔色がさっと変わったことにも気づかないようだった。

王と握手する手にも力がこもり、お互いを見つめ合う。

だがそれは一瞬のことで、すぐに別の貴族令嬢と挨拶を交代した。

ベラは王が娘だとわかったのではないかと思いつつも、それが自分の錯覚なのではとも疑っていた。

自分の願望がそう思わせたのだと。

ベラは、ダンスを申し込んでくる殿方達に丁重にお断りしながら、

遠くから王を見つめていた。まるで恋い焦がれてるように。

それでも、美しいベラに申し込みはあとを絶たず、さすがに断りきれなくなり、

仕方なく一人の若い殿方とダンスを始めたが、

気のないダンスをして、足を踏んでしまった。

「痛い!」

「あ、申し訳ありません。慣れませんもので。」慌ててベラが謝ると、

「初めての舞踏会だから仕方ありませんね。」と笑って許してくれた。

「緊張して疲れてしまいました。休ませていただいてもいいでしょうか。」

と彼から離れようとすると、

「そうですね。では飲み物をお持ちしましょう。」と言われてしまった。

彼がカクテルを取りに行った隙にベラは庭園に逃げ出した。

もう帰りたかったがそうもいかない。

一人考え込んでいると、彼が追いかけてきた。

「ずいぶん探しましたよ。夜は冷えるから中に入った方がいいですね。」

そう言うと上着を脱いでベラの肩にかけ、宮殿の中へといざなった。

確かに庭園のバラも夜露に濡れ、ベラの体も冷え切っていたのだが、

肩に触れた手の温もりが伝わってきて、ホッとしてしまった。

ふいに涙が出そうになったが、必死でこらえた。

こんなところで泣くわけにいかない。

「どうしたのですか?」彼はベラの顔をのぞきこむと、

「もし戻りたくないのなら、ご自宅までお送りしましょうか?」と言ってくれた。

「そんなに甘えられません。それに初めての舞踏会ですぐに帰ったと知れたら、

もう二度と来られなくなってしまいますわ。戻ります。」

ベラは気を取り直し、気丈に振る舞った。

「そうですね。誰でも初めての舞踏会は緊張しますよ。僕もそうでしたが、

なんとか帰らずに頑張って踊ったものです。戻ってまた踊りましょう。」

いたずらっぽくウィンクしながら微笑む彼にベラは目を見はった。

「わかりました。それではまた踊っていただけますか?」

二人で宮殿に戻ると、そこへ待ち構えていたように

「ベラ嬢、王様がお呼びです。すぐに来てください。」と王の使いにベラは連れ去られ、

名前も聞かぬまま引き離されてしまった。

ベラは王に呼び出されたことで頭がいっぱいになり、彼のことは気にも留めなかったが。

連れられた奥の間で王が一人待ちわびていた。

「ベラ、そのペンダントを見せてくれないか。」と王が切実に言う。

「はい、王様。どうぞご覧ください。」と差し出すと、

奪い取るように手に取って凝視していた。

「間違いない。これは王家に伝わる青の光だ。

昔ある女性に愛の証として渡したものだが、なぜそなたが持ってるのか?」と問い詰める。

「その女性とはライザですよね。私の母です。でも、もう亡くなったと聞きました。」

「なんだと? ライザが亡くなった? なんで死んだんだ・・・」と王は悲痛な面持ちになった。

「王妃様に殺されたと聞いてます。私を身ごもり、産んだことで怒りに触れて。」平静を装いながらも声が震えた。

「王妃がライザを? 許せない! それではそなたは私の娘だというのか。」

と王は頭を抱え込みながらも、ベラを見つめていた。

「そうです。母ライザは身の危険を察知して、私をマリア教会の牧師夫人テレサに預け、

彼女がまたエリーゼに預けて育てさせたのです。

エリーゼの死後、テレサがスコッチ家の養女にと取り持ってくれました。」

「そうだったのか。苦労させたな。」と王は腕を広げた。

ベラはその腕に飛び込んでいいいものか迷いながらも、近づいていった。

腕を伸ばした王に抱き寄せられると、信じられない思いだった。

「本当に私の娘なのか。もう一度顔をよく見せてくれ」と

両頬を手で挟み、顔を上げさせた。

「そういえばライザの面影があるな。私にも似てるかもしれない。」

しみじみとベラの顔を見つめる眼差しが温かい。

「お父様」とベラは思わず言ってから、口を押えた。

「いいんだ。ここではそう言っておくれ。だが、まだ人前で呼ぶことは叶わない。

私にはロザリーという娘が居るし、王妃がそなたの存在を許さないだろう。

またライザのように殺すかもしれない。あれは恐ろしい女だからな。

だが、ロザリーは王妃に似ず心優しい娘だ。姉妹仲よくしてもらいたいものだが・・・」

叶わない夢を見るように王は遠くに目をやった。

「ロザリー王女が私の妹なのですね。」

「そうだ! そなたをロザリーの学友にしよう!」

いいことを思いついたとばかりに王は手を打った。

「そうすればそなたを宮殿に置けるし、ロザリーとも親しくなれるだろう。」

「学友とはなんですか?」

「ロザリーと一緒に家庭教師に学び、遊んだりするのだ。やってくれるか?」

「はい、喜んで。お父様の近くにも居られるようになるのですよね。」

「そうだな。たまに会うこともできよう。私がロザリーを見に行けば、

そなたにも会えるということだ。」

「うれしいです。いつからですか?」心躍り、声も弾んだ。

「早速手配させよう。手続きが整い次第、迎えをやらせるから待っておいで」

「わかりました。楽しみにお待ちしてます。」

二人は見つめ合い、名残を惜しみながらも、怪しまれないため

早々にベラは奥の間を引き払い、自宅へ戻った。

(続き)



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